2014年1月18日土曜日

宇宙戦艦ヤマト2199考Ⅸ


 

. そして艦は往く ~提言~


今、興味があるのは、「宇宙戦艦ヤマト2199」の後にガトランティスと激突するであろう次回作についてです。


 2199では、旧作のリメイクとして旧作の矛盾点や内容の取捨選択・再構築が行われることで作品クオリティの大幅な向上に貢献しています。

 次回作においても、そういった従来からあるモチーフをベースにして再構築を図る手法をとるのかホントにオリジナルを創作するのか非常に興味があります。

 

 ここでは、今まで9回に分けて述べてきたヤマト2199考をもとに「提言」を試みたいと思います。 


 なぜなら、これらの要素が多少なりとも含まれていない内容のヤマトが創られた場合、とんでもない「傑作」となるか、それとも「作らなくても良かった」内容となる気がしてならないからです。


 【提言】


  ①  如何に危機的な「ミション・イン・ポッシブル」な目標を創造出来るか。


  生きている人間で沖田艦長に変わり精神的支柱となりうる存在をつくること。
 沖田艦長が死すとき「何もかも皆懐かしい」と独白した感情や古代や雪が叫んだ(前述)感情のピークを超える「感情」を創造すること。


  行き当たりばったり戦略でなく「戦略と戦術」に基づいたものとする。


  SF設定において宇宙物理学などに基づいた知的好奇心に満ちた「明晰」なものを物語へ投入する。


  イスカンダルと約束した「次元波動砲」の扱いを明確にすること。


  登場人物におけるいろんな形の「愛」を表現する。


  次回作でも「魂をつなぐ物語」とすることができるようにすること。


  出来れば物語のラストで短絡的に「特攻」をかける終末的な終わり方をさけること。
   沖田艦長が行ったように最後までねばり強くピンチをチャンスに変え戦うこと。



すみません。結構好き勝手に記載してしまいました。

タイトル・内容についてご寛恕いただければさいわいです。



宇宙戦艦ヤマト2199考Ⅷ





6.     愛の戦士たち ~愛・情と理・魂を繋ぐもの~ (2/2)

 

 「生き抜こうとする意思、彼らにはそれがある。 あなたのことは伝えなければならない。 彼女も来ていた。でもそうしたらあなたとはもう・・・。・・この星は悲し過ぎる。」

スターシャ・イスカンダルの独白ですが、守が死んだ今でも、守と意思疎通ができていることが分かります。

高度の科学は魔法のようなものと真田副長がいっていました。守が記憶だけだったらスターシャとお話したり、「これくらいしかおまえにしてやれない。沖田さんに艦をかえします」という独り言はできません。

ではなにが居るのか。その守本人のパーソナリティーのコアの部分が次元波動として「命のエレメント」が残っており、そのまま電子知能に組み込まれ魂として機能しているという理解しかできません。これこそ魔法です。

ユリーシャが「お姉様、コスモクリーナーを与えてください」って意見具申したとき「いま検討中です」と事務的に返してしまいます。

「情と理」という言葉があります。両方のバランスがとれていないと物事はうまくいかないということなのですが、ここでスターシャは理屈の部分で十分理解しているのですが、守への想いや寂しさといった女の情の部分で譲れぬ「こだわり」がわだかまって心の懊悩が垣間見えます。


 そんな聡明なスターシャの「情念」が、どう育まれたのか。

捕虜として護送船に載せられイスカンダルへ不時着・負傷した古代守に対し、ガミラスに知られないよう、密かにスターシャが献身的な看護を続けていくうちに守は小康を得ます。

喜ぶスターシャ。逢う機会が等比級数的に増えていきます。一方、守も戦闘で負けて地球を守れなかった思いや新見と別れた心のすき間、捕虜として搬送中に負傷したことなどから心身両面に傷を負っていました。守は異星人とも分かり合えることを教えられたと最後のビデオレターで述べていましたが、スターシャ・イスカンダルの無償の愛情や思想にいつしか惹かれたのではないかと思います。

スターシャも心に傷を持ちながらも気高い守の開放的な明るさにインスパイアされ愛し合うようになったと思います。

   デスラーには知られてはいけない絶対秘密の雰囲気のなかでさらに深く濃密にお互いを尊敬し・全てを分かち合う間柄になってしまった。
 

「彼女も来ていた。」と守との思念による会話の中でスターシャが独白していました。つまり、二人の中では「昔の女」の話は伝わっていたということと、守が新見を振ったのではなく新見の意固地さが二人の関係を微妙にしていたところに、守自身も戦闘のため死地に向かうことから別れたのだと思います。

スターシャ猊下とのヤマトクルーとの最初の謁見の際、チラリとスターシャが新見を見た目にスターシャのどんな想いが秘められているのか心底知りたいと思いました。

こういった目先のやりとりから心理状態を想像することも2199を観る楽しみのひとつでもあります。

   スターシャは、あまねく知生体のことを考えて地球へ次元波動エンジンの技術供与をしてくれ、デスラーとはチェスもどきをしながらも、守とは秘密の愛を育み、C.R.S.を受領したヤマトとお別れのときには、お腹押さえて「さようなら 守!」ですから女はある意味怖いというか強すぎです。
 

古代進は雪との最後の別れに、雪を生命維持装置から引っ張り出し抱きしめます。

心肺停止・脳死状態のユキに恋愛するまでの経緯をキチンと語って聞かせます。しかしいくら語っても雪が甦るハズもなく感情に抗しきれず、

   「君のいない地球になんか意味があるのか。意味が!」と絶叫します。

「これくらいしかおまえ(進)にしてやれない。沖田さんに艦をかえします」

   守は沖田の死が近いことを知っていてC.R.S.を限定的(雪)に非常に純度をあげて稼働しました。

それがもし、沖田艦長へも照射されていれば、「何もかもが懐かしい」というセリフを聴くことはなかったからですが、沖田を復活させると「命のエレメント」となるものがなくなり地球を救うことができなくなってしまいます。

   守が雪に行ったのは脳死状態の雪にまだ残っていた波動エレメントの代謝速度を加速して治療を行ったのではないかと妄想しています。

碧水晶の花がユキの復活とともに仄暗い碧から黄金色に変化したのが印象に残ります。

   しかし、C.R.S.の目的は死んだものを生き返らすことではないような気がします。

そうであればイスカンダルの住人が王女さまと姫さまだけというのは納得いきません。守だって生きていたろうし、死んで灰や骨になったものを生き返らせるのではない。と思います。

それではハリポタのヴォルデモートになってしまいます。

考えられるのは、ユリーシャが言った「生命を宿した惑星にはその星の物質と生命の進化の記憶が時空を超えた波動として存在している」という次元波動理論を理解するしかありません。

C.R.S.とは、余剰次元波動としてコンパクト化され存在している星の物質と生命の進化が刻まれている「次元波動体」から地球へ命の芽を解き放ち、素粒子状態の星の記憶を生まれた時からやり直しできる「星の進化」を加速させる装置のように思います。

ユリーシャが、「生命を宿した惑星にはその星の物質と生命の進化の記憶が時空を超えた波動として 存在している。その記憶を解き放つのは、星の思いを宿した物質、星のエレメント。C.R.S.のエレメント(ヤマト)がココに来ないと完成しない。」と言っています。

結局、次元波動エンジンも次元波動砲もC.R.S.も神の数式によって構成され希求する性能に対し、莫大な効果を得られるよう設計された技術。

   星の物質と生命の進化の記憶が時空を超えた波動として存在しているのでC.R.S.により、記憶を解き放つのに必要となる引き金が意識体(魂)を有した「命のエレメント」なのかもしれません。

   スターシャが「わたしたちのような愚行を繰り返さないようにと。」言っていましたが、イスカンダルへの畏敬の念は、最初次元波動砲による恐怖支配からきて、その後、改心したイスカンダルが昇華された思想を獲得、さらに敬愛の対象となったと思います。

   以前、ヤマトという物語は「魂をつないでいく物語」ということを出渕監督が七章の試写会の際言っていたと記憶しています。 

最初に古代守がヤマトのコスモリバースシステムの「命のエレメント」になり、雪を救うため(ほんとは進の魂を守るため)自分の魂のエレメントが消滅することを承知で稼働しました。そこへ死んだ沖田の魂が次の「命のエレメント」となった。沖田のエレメントも星のリバースのため消失するかもしれませんが、これもかならず稼働するでしょう。こうしてヤマトで死んだ者たちは魂をつないでいくのだと思います。

宇宙戦艦ヤマト2199考Ⅶ


 

6.     愛の戦士たち ~愛・情と理・魂を繋ぐもの~(1/2)

メ号作戦の後、偽装していたヤマトにガミラスの空母からレーザービームが打ち込まれ、当初ヤマトへ搭乗するはずだった乗組員たちが死亡します。これは意外に大きな出来事だったのではないかと推察します。

もちろん古代進や島大介などの人事上の抜擢につながるだけでなく、後に艦内で発生するイズモ派による反乱がありましたが、死亡した乗組員たちのなかにはイズモ派がより多くいることも考えられ、反乱が成功し沖田艦長や真田は排除されていたかもしれません。また、沖田艦長というリーダーだけが突出した組織構成となったため沖田の指示する統率に支障が生じなくなったことなどミッションの成否にも影響した可能性があります。

その沖田艦長のもとで抜擢された若い力はいろんな経験を積み「魂」が成長する物語になっています。

  古代進と森雪の出会いは、死に行く雪に進が語りかけたように確かに最悪でした。

そんなふたりですが、「氷原の墓標」では、じっくりと古代進の内面を兄の墓標を絡めつつ描きだすとともに、さらわれた雪を進が取り戻した事件をキッカケに森雪の気持ちの転換点となります。魔女はささやくの土壇場に至ってようやく進は「森くん」ではなく、「雪」と呼び捨てで呼ぶようになります。

「愛詞」の歌詞に「わかるひとにしかわからない愛詞(あいことば)」とあります。ありふれた男女が特別なひとになる。逢いたくて、切なくて、傷ついたあなたの命へ触れたくなったり伝えたくなったり、そういう恋愛模様がドラマの起伏となって楽しませてくれます。

ユリーシャ・イスカンダルは、地球でテロに遭い航法装置の中に生命維持装置とともに押しこめられました。亜空間ゲート内にてデスラーの襲撃を受けた際、今度はそのとき同じテロにあった雪が意識不明の重体となりカプセルで生命を維持します。

雪をこのカプセルに入れ命永らえようとはかりますが、およばず心肺停止と脳死状態に陥ります。そのあとC.R.S.の照射を浴び生命の再生がなされた。

「象徴的」と感じてしまったのが、白雪姫が毒リンゴを食べてしまい、棺のなかに入って生命を維持した状態となり、お姫さまは愛する王子さまのキスでよみがえる。

森雪は、古代進の熱い抱擁とキスでよみがえります。オールドファッションですが、そういう寓話をもとにこの舞台設定なされたのではないかと夢想します。

   デスラー襲撃のシーンはテーマ曲と相まって戦慄すら覚えました。

   デウスーラⅡ世は第二バレラス崩壊時、タラン長官の機転でゲシュタムジャンプして助かっているのですが、今回もタランの活躍により襲撃ポイントの設定や接近の仕方、攻撃手法などを考えたと思われます。

   タランみたいに優秀なテクノクラートを有しておきながらそれを生かせず、スターシャに執着するメンタリティーのデスラーを見ていて切なくなります。

さらに自分の帝国が潰えた理由をヤマトだけに転嫁し、ヤマトを欲しがる狂気に虚無を心に宿してしまった男の無惨さを感じます。

戦略的に何の意味もないデウスーラⅡ世による襲撃によって、「戦うことなんてなかった」悲しい出来事が起きます。一つは雪やほかのヤマト乗組員たちの多数に死者・負傷者がでたこと、もう一つはデスラーが生存していることを知り狂喜したセレステラがジレル特有の精神感応波を無意識にデスラーに照射してしまい反射的に反応したデスラーが銃を撃ってしまったことです。

狂喜してデスラーのそばへ近寄っただけなのにデスラーに銃撃され、総統府にて裏切られた想いがぶり返したセレステラとしては一緒に死にたいとデスラーへの発砲となりますが、助けてくれた過去の想いもありそれも果たせず自殺を図ります。が、それすら果たせずお付きの者に蔑まれて殺されたそのセレステラの無惨な死に様は、さすがのデスラーに冷水を浴びせたと感じます。

   それが古代と雪への発砲を止めさせ撤退した理由かもしれません。

   このあたりデスラーの狂気はセレステラによって減じられたような気がします。

デスラーにとってセレステラに少しでも魅かれる部分があればどちらも救われますが、それは叶わずセレステラの登場シーンにいつも流れる寂しげなメロディーがいつまでも頭に残ります。
 

   さすがとしか言いようがないですが、真田たちがガミロイドをきっちり調査していただけでなく、コンピュータウイルスまで作っていたとは!結構ビックリします。

新見とアナライザーの喜ぶシーンが非常に愛らしくて良かったです。

 ウィルスのヒントは、ハリウッド映画のインディペンデンスディあたりの影響を受けているかもしれません。ヤマトのシナリオが進化している証左だと思います。

さらに実弾攻撃のシーンを見たときには、大航海時代のパイレーツオブカリビアンを彷彿とさせ興奮して手に汗を握りました。

   科学が進みすぎていると今回のような特殊な状況下では実弾攻撃が有効だったということですが、沖田艦長が好きな人間力が発揮された結果なのかもしれません。

   しかしドメルの旗艦ドメラーズは、艦橋の一部が離脱する仕組みになっていました。ここでもそういう仕掛けになっていても不思議ではありません。

宇宙戦艦ヤマト2199考Ⅵ



5     神の数式 ~明晰~

 2199ヤマトにおいて次元波動砲を撃った回数は、

浮遊大陸前線基地破壊
       恒星グリーゼ581のフレアに向けて発射
       異次元断層内での位相境界面への発射
       バラン星のコア及びバラン鎮守府破壊
       ガミラス本星総統府に落下してくる第二バレラス633工区の破壊

の5回となっています。


 最初の試射を兼ねた浮遊大陸破壊を除き、あとは全て回を重ねるごと精神的に昇華され「信念」を伴った男の行動として次元波動砲が放たれます。特に、最後のガミラス本星総統府に落下してくる第二バレラスを破壊し敵ガミラス人民を救った「行動」によって波動エネルギーを武器に転用した件でのスターシャ・イスカンダルの怒りを鎮静化しC.R.S.の受領を可能にしました。
 

 そんな物語の大きなターニングポイントにもなった次元波動砲の具体的な原理は、真田によるとブチンスキー波動方程式の特殊解に従い、コンパクト化されたカラビ-ヤウ空間の一部を解放するというものです。


 次元波動エンジンは「真空からエネルギーを汲み上げることで莫大なエネルギーを無補給で生み出すことができる、夢の無限機関※1」とされています。
   M理論による仮説で、宇宙は11次元(空間次元10+時間次元1個)で誕生したが、そ
  の後、5次元以上の余剰次元は観測不可能な大きさとなって宇宙全体に重なり合ってい
  るとされています。※1


次元波動エンジンはその余剰次元を元の大きさへ戻すことができる機関であり、その際、余剰次元に力を及ぼしていた重力が開放されることでマイクロブラックホールが生成され、ホーキング輻射を伴って蒸発するマイクロブラックホールの莫大なエネルギー放射を人為的に取り出す機関※1※1 以上 Wikipedia「次元波動エンジン」より)ということです。


ともかく素粒子理論において、超弦理論では余剰次元が折り重なっていることをコンパクト化されたカラビ-ヤウ空間と言っていて、それをもとの状態にもどすことでマイクロブラックホールを人為的に作ってそこから莫大なエネルギーを取り出しその一部を開放する行為が次元波動砲を撃つことのようです。

空想や仮説の部分も当然あるのですが数学や物理学の世界は明晰でないと門外漢には内容を理解することすらままなりません。


「物理学の最終目標に神の数式(究極理論)の探求があります。アインシュタイン以来、物理学者たちはあらゆる現象に対し発見した定理を数学の言葉に置き換えたいと血眼になってきました。ひとつの数式であらゆる現象を説明することができたならそれこそが神の数式といえるのではないか。※2

「全ての物理学者は万物の理論(Theory of Everything)を見つけることを夢見ています。自然界のあらゆるもの、素粒子から大宇宙までも説明できるものです。※2

「基本素粒子の4つ(電子:e ニュートリノ:ν クォーク:u d)とそれをまとめている電磁気力、強い核力、弱い核力を完全に理解できれば、この世のすべてが説明できると信じているのです。※2(標準理論:数式参照)」


求める最後の素粒子としてヒッグス粒子というものが最近セルンによって発見されました。この標準理論によって今考えられていることが、「宇宙は、設計者である神の数式によって誕生し、当初は設計図通りの完璧な対称性を保っていた。
   そこではあらゆる素粒子に重さがなくバラバラに飛び回っていた。しかし、ヒッグ
  ス粒子などが起こす自発的対称性の破れによって素粒子に重さが生まれ、その結果、
  素粒子がまとまり原子がつくられ星々が輝きはじめ銀河も形成されていった。※2

※2以上、NHKスペシャル「神の数式」より)

 

    数学も物理学も門外漢ですが、この標準理論における基本素粒子や電磁気力、核力、ヒッグス粒子の並びの構成をみて非常に美しい数式だと思います。


ここからは妄想の類ですが、「次元波動理論」はこの基本素粒子にまつわる余剰次元と重力の関わりを解き明かしこの標準理論にそれらを加味した理論となっているように感じます。当然、11次元もあるといわれる余剰次元とともに生成される次元波動には時空も越えた波動として生命や進化の記憶があると思います。これらの理論はC.R.S.へも応用され後に地球再生の鍵となります。

ユリーシャが森雪に手渡した鉢植えの碧水晶「秘めた命、秘めた思い」がイスカンダル星で咲き誇っています。


次元波動理論を証明した方はこの碧水晶の花言葉の成り立ちからその理論を思いついた頭脳明晰なロマンチストなのかもしれません。

宇宙戦艦ヤマト2199考Ⅴ



4.     戦略と戦術(2/2)
 

 
 森雪が、デスラーに向かって「地球もガミラスも戦うことなんてなかった。愛し合うことだってできるのに。」と叫びます。

 ここには本質的に重要な意味があると思います。古代から未来にいたるまでいつの世も戦争を起こすのはその国の体制側である為政者たちです。

 理由はいろいろあれど基本的には自分たちの既得権を守るために戦争を起こし国民だけが死地に追いやられます。

 いっそのことそういう為政者たちや扇動者たちだけで部隊を作り本人たちだけで戦争をやればいいのです。デスラーと芹沢虎鉄、ズォーダー大帝の3人で共に差し違えたら宇宙が平和になったことは間違いありません。


  血塗られた戦争の連鎖を人類は宇宙はいつまで続けるのでしょうか。いつになったら森雪の叫びは我々に届くのでしょうか。


 七色星団において敵将ドメルは空母4隻の機動部隊しか与えられていませんが、開発兵器部の極秘試作品である瞬間物質輸送機を用いた重爆撃機や雷撃機で戦術を組み先に攻撃を仕掛けることで戦闘の主導権を握りヤマトを散々に苦しめます。


 攻撃を先制されレーダーを失ったヤマトは人間の目で警戒し、ひたすら耐えしのぶことしかできませんが、そんななかでも爆撃機をワープさせて攻撃していることを看破し、さらには機動部隊が直接攻勢をかけてくるのを予測、イオン乱流の本流がどこにあるのかを調べさせるなど「常識に囚われない」沖田艦長は老獪で判断に誤謬がありません。


 七色星団を選択したときに、沖田艦長にはドメル旗下の彼らが来るような予感があり、猛烈に時化(しけ)ている宇宙空間など「地の利」を利用する戦術構想がその時、もうあったのかもしれません。

前回カレル163宙域において追いつめられたのは艦隊戦だったのに七色星団では爆撃機による機動攻撃という攻撃方法の変更に亜空間ネットワークを撃破されたガミラスの窮状を見極めていたと思います。


 なお、戦略に用いられる策略とはダマすことではありません。人間心理の流れを見抜いて戦術の効果を無理なく発揮させた沖田艦長の行いが本道なのです。

しかし、ドメルの部下達、ゲットー、バーガー、フラーケンなどみんな素晴らしい男達でそれぞれが艦隊指揮をとれる能力を有するのに今回七色星団では首都防衛をつかさどる親衛隊のいやがらせで老朽空母しか配備されなかったことが敗因の一つでした。

あのバーガーがオンボロ空母のなかで「もう一度爆装させろ。」や「こんな最後認められるかよ。」と訴えている姿なぞ哀愁を漂わせており、こんな男達を重用できない組織だからこそガミラスは凋落していくのかもしれません。

 文明が滅びるときはその兆候が表れますが、2199ではデスラーの企図する版図拡大により、惑星蜂起などの混乱・人民の心が乱れガミラス文明が衰退する大きな流れが発生しつつあるときにヤマトという戦艦が出現しその流れを加速させたという展開になっています。戦艦一隻の戦術だけでは敵国が滅びないところを描けているのが凄いと感じます。


 バラン戦を攻略、亜空間ネットワークを崩壊・爆逐させ、ガミラスの主力艦隊を3ヶ月の彼方に置きざりにし、ドメルと旗下の猛将たちもしりぞけた沖田艦長の戦略・戦術的な行為によりサレザー星系にワープしてきたヤマトに対し、デスラーとしては奇襲による襲撃をかけるしかありませんでした。相手にその選択しかないように選択肢を狭める戦略も方法論としてはありますが、この場合は追い込まれたデスラーが沖田艦長の想像を越えた戦術にでたというところが正確かもしれません。もっとも彼の本質としてそういう襲撃が好みのような気もしますが・・・。

ガミラス本土を防衛していたのは親衛隊長ハイドム・ギムレーですが、彼が本当に防衛していたのは、第二バレラスでした。見せかけのため形だけ空母3隻と戦艦5隻を総統府へ攻勢を掛けるヤマトに対し投入します。 
     

 ギムレーには、オルタリアの惑星蜂起の際に惑星を殲滅した最新鋭の戦力があったので、ヤマト攻略をなしうる能力を有していたハズですが第二バレラスの警護「しか」していません。

本国へ戻れないガミラスの主力艦隊もそうですが、戦力を高速で移動させ決戦すべきポイントへ集中する。古くはナポレオン、2199ではドメル大将が得意としたその戦術の基本を忘れ、遊兵を作ったら勝てる戦争も勝てません。   

このあたりにもデスラーやギムレーの戦術上のミスが垣間見え、これも敗因のひとつとなっていると思います。


 サレザー星系エピドラ付近を航行するヤマトに放たれたデスラー砲の初弾をからくも逃れ、ギムレーが配置した首都防衛の艦艇を撃破し、総統府へ突入したヤマトに、デスラー総統は自分の目指す理想郷をつくるため、第二バレラスの一部を分離しコロニー落としを仕掛け、再度デスラー砲により総統府ごとヤマトを沈めるよう攻撃を敢行します。自分の人民とともにヤマトを葬る、タランを驚愕させたこの戦略・戦術行為によりデスラーは人心をも分離してしまいます。

経営的なアプローチにおいて、今は顧客の心の変化を見誤ると例え大組織といえども組織は衰退せざるを得ません。その兆しは至る所で垣間見ることができるのですが状況全体は、非常に複雑になっており、兆しを見つけ分析的アプローチをとっていても必ずしも対処出来ず失敗してしまいます。

 
 デスラー総統や総統府の幹部たちが人民の心の変化や情勢を見誤り、戦略的な失策を重ね国の経営に失敗したことにより今後黄昏の帝国として凋落すると思われますが、そのツケはそういう独裁者たちを出現させ熱狂的に応援した人民が支払うことになる。 

これは歴史の必然でもあります。

そんなガミラスの首都バレラスの人々が見たのは、総統府に突入を敢行し総統府と一体化したヤマトの艦首次元波動砲から発射された「青い閃光」により第二バレラスのコロニー落としを防いだということです。

  
 ヤマトが総統府と一体となり首都バレラスの人々の危機を救った沖田艦長の行為は今後のガミラスと地球の関係を修復する象徴的な出来事と感じています。

  囚われの身の森雪やノランの活躍により第二バレラスのデスラー砲を破壊することに成功しますが、古代が宇宙空間で雪を見つけることや第2バレラスの爆逐に巻き込まれないようヒロインのもう一工夫が論理的に表現できていれば物語としてさらに良かったのですが、このあたりは伝奇ものの世界観かもしれません。でもそういう奇想天外な面白さもヤマトの魅力のひとつです。

   
 ところで「たった一人の戦争」ってTVタイトルは雪のことだとずっと思っていたけど雪にはノランがいたし、戦争を連呼していたのは デスラー総統だよなと。そう思うとこの題名は意味深に感じます。

宇宙戦艦ヤマト2199考Ⅳ



4.     戦略と戦術(1/2)


太陽系での戦いでは、冥王星ガミラス基地破壊を目的とした「メ2号作戦」が展開されます。

作戦内容は、ヤマトが陽動で敵艦隊を引きつけている間に別行動をとる航空隊が敵基地を発見し、連携して攻撃するというものでしたが、冥王星基地指令長官 シュルツ指揮の反射衛星砲による死角のない攻撃にさらされ、苦戦を強いられます。


シュルツも遊星爆弾製造システムを直接攻撃に転用することを思いつくまでは良い思案だったのですが、自ら言った「戦場では臨機応変をもってすべし」ことを忘れ最初の考えに固執して艦隊を動かさず遊兵を作ってしまうことや最悪上司であるゲールとの連携にも齟齬をきたし敗退してしまいます。


この作戦は最終的には古代・山本の活躍により敵基地の発見・殲滅に成功し、地球への遊星爆弾攻撃を防ぎました。以後ヤマト計画では全て「臨機応変」の戦い方により作戦が実行されます。ドメルやシュルツがその状態を看破できれば深く頷いたと思われます。


2号作戦は、冥王星の攻撃ポイントの洗い出しが事前に行われているなど、地球首脳部が作戦立案していたフシがあります。ガミラスへの反攻作戦として地球を脅かす冥王星基地への「怨嗟」の思いが激しく深いことがわかります。


「戦略と戦術」という言葉があります。


   「戦略」とは、目標を達成するために、大局を眺めながら長期的視野と複眼的思考で戦力や心理的策略を総合的に運用する術であり、「戦術」とは戦略で決めた目標や方針に従い、任務達成のために兵力・物資を効果的に配置・高速移動して戦闘力を集中し運用する術です。


   2199ヤマトは、戦略的な戦い方を行えたでしょうか。


   残念ながらヤマト進発当初は、ガミラスというものがどのくらいの戦力で策源地や本拠地がどこにあるのかも不明、そもそも行先のイスカンダルすらも一般方向がわかっているだけで位置も特定できずガミラスとイスカンダルが双子星など夢の又夢であり何もかも不明でした。情報が何もない中では戦略はたてられません。


   イスカンダルからもたらされた情報とユリーシャ・イスカンダルが話す言葉だけがわずかな情報でしたが彼女もテロに遭い航法装置の中に生命維持装置とともに押しこめられ道義的に許されない過ちを地球の為政者たちは犯しています。


   そういうことから「ヤマト計画」は、シンプルなアウトラインしか決まっていない計画のような気がします。だから当初の計画だったイズモ計画派がこれでは成功することはおぼつかないと判断し、テロや反乱を起こしたと思います。


   沖田艦長は、戦略的には盲目的な状況を承知しつつも眼前の敵を各個に撃破し続ける「戦術」を重ねることで、最終的にはC.R.S.を受領し地球に持ち帰るという「戦略」をたてミッション・イン・ポッシブルな任務に身を投じることになります。


   「いや航路に変更はない。敵中に活路を見出すのだ。」銀河方面のゲートから亜空間ネットワークを用いバラン星へ進もうとしたとき、バラン星周辺に1万隻ものガミラス艦艇が集結していることを偵察で確認した際、沖田艦長が決断したセリフです。


ピンチとチャンスは同じ形にみえるというのが兵法上の常識ですが、副長以下全てのヤマト幹部が1万隻という数字に「ピンチ」と判断したのに沖田艦長ただ一人が「チャンス」と判断し戦術を組み立て決断します。


 この決断に至るには、敵の密集具合から戦闘隊形となっておらず敵に隙があると判断したこと、またバランから大マゼラン方面への亜空間ゲートも開通していること、さらにバラン星の中心部は人工物で出来ていてガミラスの亜空間ネットワークの中継点として重要な要衝であることが判明したことです。このガミラス帝国の交通の要衝であるネットワークを叩き、敵を混乱させることを沖田艦長は「戦略と戦術」の根幹に決めていたに違いありません。


ただ、この決意の裏側にはカレル163宙域で敵将ドメル率いる銀河方面軍の艦隊に包囲され死地を覚悟した「経験」や先ほどの「沖田戦略」から熟考し、逃げ回っても今後の局面は打開できないと断固、積極攻勢を決断します。


 そのバラン星の宙域では、国家元帥ゼーリックがデスラー総統に反旗をひるがえし1万隻もの艦艇を集め、帝国の転覆を図るため演説を行うさなか、銀河系側の亜空間ゲートにヤマトが出現します。

「第一戦速」「撃ち方はじめ」さらに「舵そのまま、両舷増速」と戦況にあわせ沖田は指示を出し速力を武器に1万隻もの大艦隊との大立ち回りを行います。


   これが「沖田戦法」と古代戦術長に言わしめ、ガミラス側のクーデターの混乱騒ぎに乗じバラン星の中心部を次元波動砲で崩壊させ戦略構想を完結、ヤマトは亜空間ゲートを通過して一気に大マゼラン銀河方面への進出に成功します。


第二次世界大戦中における日本は、数々の辛酸や数百万人を超す恐ろしい犠牲を払っても、ついに太平洋を越えることもアジア諸国に進むことも叶いませんでした。


にもかかわらず敗戦後の日本の商品は、人々に「利益」を与えることにより全世界の隅々まで行き渡った事実があります。


これは戦略思考の違いで共存共栄し相手の力をも味方にする戦略です。ヤマトも第十七捕虜収容所のあるレプタポーダにおいてガミラスの反体制派と共闘を探ります。
  

地球の体制側たる為政者からみれば許しがたい行為にもみえます。会談は物別れしますが、戦略思想として素晴らしいのです。

宇宙戦艦ヤマト2199考Ⅲ



3.     哲学 ~信念~



 地球最後の艦隊による最終決戦の際、戦艦キリシマ艦橋において沖田艦長が発する言葉にこの物語のフィロソフィー(哲学)を感じます。


 敵艦より通信で降伏勧告をされたときの返信「バカメ」、古代守が敵艦隊へ突っ込まないよう諭す「明日のために今日の屈辱に耐えるのだ(このセリフはなかった残念。)」、敵艦隊へ突出していくゆきかぜ古代に対して「古代!死ぬなよ」、戦艦キリシマの脇を通過し地球を直撃するコースの遊星爆弾を見て「悪魔め。わしは命ある限り戦うぞ。決してあきらめたり、絶望はしないぞ。たとえ最後のひとりになってもわしは戦うぞ」など沖田艦長の激白に心をゆさぶられます。 


 絶滅しつつある地球生命体の「男の決意」によりこの物語がReスタートします。

  
 沖田艦長が病気で倒れる前に戦術長 古代進に対して語る言葉が心を打ちます。

 ガミラスとの初遭遇において回想しながら「先制攻撃に反対して解任された。命令に逆らう。軍人としては間違った行動だ。あってはならない。だが軍人であってもひとりの人間として行動しなければならないこともある。人は間違いを犯す。もしそれが命令であったとしても間違っていると思ったら立ち止まり自分を貫く勇気も必要だ。そうわしは思う。」沖田が語る言葉にはゆるがせに出来ない信念があります。


 第二次世界大戦中、リトアニアのカウナス領事館に赴任していた日本の外交官 杉原千畝は、ナチス・ドイツの迫害によりポーランド等欧州各地から逃れてきた難民たちの窮状に同情し、大量のビザ(通過査証)を発給し、およそ6,000人にのぼる避難民の命を救います。
 
 外務省からの訓令に反したため後に外交官を辞職させられ、その後半生は華やかさとは無縁の不遇を受けます。でも彼もまた沖田の言う「ひとりの人間として行動した」男でした。


 古代進も通常空間とは隔絶した別空間から敵の魚雷攻撃を受けヤマトが危機に陥った際、葛藤します。沖田の意見を受け容れ真田副長の軍令に背きますが敵の次元潜航鑑をしりぞけることに成功します。

  
 宇宙戦艦ヤマト2199では戦闘シーンが数多くありますが、そのなかでも一番厳しい戦いだったのが、カレル163宙域で敵将ドメル率いる銀河方面軍の艦隊に包囲されたときです。沖田が病の治療中外していた際、部下である真田副長が敵将ドメルの智謀による罠に完璧に落ちますが、決して沖田艦長はあきらめません。


 艦首に波動防壁を最大展開しつつ第二戦速でこれを正面突破する指示を出し、「死中に活を見出さねばこの包囲を突破することはできない。」と断固宣言し、火力を前方へ集中させ敵中枢ドメルの巨大戦艦へぶつける覚悟で突破を図ります。苦戦のうえなんとか突破しますが、多数の別動艦隊に捕捉・攻撃され、ショックカノンなどの主要火器や次元波動エンジンなどの戦闘機能が極端に低下し撃沈寸前まで追い込まれます。


 沖田艦長はこのとき沈黙していますが、何を感じていたのでしょうか。

諦めるのでもなく絶望もせず何か「活路」を見出せないかと刻一刻と変わる戦況を観察していたのだと思います。すると敵艦隊の攻撃が沈黙し、ワープアウトして戦線を離脱します。

デスラー総統へのクーデターの濡れ衣をドメルがきせられたため、まさに間一髪で死地を脱します。
 

  「波動エネルギーは武器ではない。武器にしてはいけない。あれは星を渡るためのもの。1年前あなたたちに渡した設計図はイスカンダルへ来るためのもの。」とユリーシャ・イスカンダルより指摘を受けた沖田艦長は、「168千光年を旅する我々にはガミラスから身を守る武器が必要だった。」と答えます。


 「そして作ってしまった。真田が。それではガミラスと同じ。波動砲は本当に身を守るためだけのもの?」懐疑するユリーシャ。「なぜ尋ねないのかな。なぜコスモリバースシステム(以下C.R.S.)を直接もってきてくれなかったのかと。」さらに問いかけるユリーシャ。


 キラー・クエスチョン「正しい質問」という質問がありますが、ユリーシャ・イスカンダルから受けたその更問により、試されていることを悟った沖田はこう答えます。


 「信じて欲しい。われわれを」「我々は試されているのかもしれない。あなたに。あなたたちに。では、全てを見届けていただきたい。ヤマトが、いや人類が救うにたりうる存在なのかどうかを」

  
 こう答えたことで2199ヤマトでは、単なる殺戮や復讐を行うために波動砲を撃ちまくるのではなく、もっと精神的に昇華され「信念」を伴った男の「言葉ではなく行動」として、後に記述する沖田戦略や戦術に次元波動砲は生かされることになります。


 イスカンダルでC.R.S.を受領し、沖田は共に苦労してきた部下たちに語りかけます。「帰ろう。ふるさとへ。」戦場ではあれだけ部下を叱咤する強き男がみせる内面のやさしさに感動します。

物語の最後、命を懸けてなすべきことを為し、死を迎えた沖田艦長が地球に帰還します。


 地球を眼前にとらえ、こみ上げてきた思いのまま独白します。

 「地球か、なにもかもみな懐かしい。」


 信念を貫き通した男の死は荘厳です。

彼の断固たる決意・勇気・知謀・統率がなければこのミッションは成り立ちませんでした。そのなされた営為に敬意を表します。


 そんな男が見せた最後の涙に形容しがたい昂揚と誇りを感じます。