2014年3月5日水曜日

宇宙戦艦ヤマト2202 「白色彗星帝国 ガトランティス編」 ~虚無と光芒の宇宙~



宇宙戦艦ヤマト2202 「白色彗星帝国 ガトランティス編」 ~虚無と光芒の宇宙~


 

1.序


 無限に広がる大宇宙。
  
  宇宙全体に浸透し、膨張する宇宙を加速していると考えられるエネルギー「ダークエネルギー」、数百万度のプラズマ、高速のガスや暗黒星雲のフィラメント、星間分子やダストなどの「星間物質」「原子」はそれぞれ星を生み出すエネルギーと材料であった。私たちの太陽系は46億年前に星間物質で構成された暗黒星雲から生まれた。


 めまぐるしく生成・消滅する光芒の宇宙のきらめきに人はそれぞれの想いを馳せた。



 2.浸蝕 ~テレザート星~


 高熱源体多数! 急速接近! 半包囲されています。」

 解析AIのとてもなめらかなテノールの声音が響きわたった。テレザート周辺宙域に異質の識別信号を持つ艦隊がゲシュタム(ワープ)アウトし、刻々と集結する状況や周辺宙域における星間物質、ガスなどの宙象を5次元モニターで的確に確認する輝く瞳が綺麗だったがそれらの確認が確信に変わったところで陰りをみせる。
 熱源体の識別信号がガトランティスだったからだ。

 「無力感をこんなに感じたのは初めてかもね。」

と知性ある落ち着いた声が現実を淡々と答えるさまに胆力の太さが感じられる。
 
 「これからどうなさいます?

自らプログラミングした高性能AIの自然過ぎる問いかけに

「ふふっ」口元に愛らしい笑みを浮かべ、

 「高貴な手段に訴えるしかないわね ! あなたも遺跡の方にシステムを移すのよ!!」

こう答えたのは、艶のある長い髪、陶器のような肌を持ち、輝く愛くるしい瞳を有する女性であった。
 

  ガトランティス軍の特殊大隊がテレザート星を半包囲し占拠する勢いを示すと、彼女は全宇宙に向けて「宇宙の危機」を知らしめる超空間通信を行い、反攻するも星の上部空間まで破壊しつくされ、星ごと封鎖されてしまった。

  しかし、古代文明の要害を盾に再反攻したため、いまだテレザート星はガトランティス帝国の手中にはなかった。



  ガル・ディッツ提督率いるガミラス艦隊は現在ガトランティス軍の本隊と対峙し、超空間通信の危機についても理解が及ばずテレザート星へ割り振る余剰艦艇もないことからこの問題を放置していたが、スターシャ・イスカンダルから懇願とも受け取れる強い要請を受け、ディッツ提督は、ユリーシャ・イスカンダルと娘のメルダ・ディッツ、そして先頃ようやく情愛を深めることのできたエリーサ・ドメルに戦艦、巡洋艦、工作艦など2,000隻と次元潜航鑑を与えテレザート星へ急遽派遣した。

  戦力的には正直辛かったが、この危険な宙域から愛するものたちを遠ざけたかったのだった。
 この無骨な男に似合わぬ精一杯の配慮であった。




 3.退廃 ~地球~


 西暦2199年、デスラーが企図したガミラス帝国の版図拡大の一環であった地球侵攻を阻止し、数々の困難を乗り越え、地球へ帰還したヤマトは、星の物質と生命の進化の記憶を封じ込めたエレメントを触媒にし惑星の記憶を解き放つ力で惑星を再生させるコスモ・リバース・システム(以下C.R.S.)そのものとなって再稼働し、放射能汚染の解消・海や草原・森林の復活など惑星の再生に成果を発揮し、人々に勇気と希望を与えていた。

 そして復興の中心が地下都市から地上都市に変わって日常生活を取り戻し、最新鋭の宇宙戦艦が次々と建造されるようになると、絶望するほど逆境のなか強い意志と人間力を発揮して戦ったヤマトのミッションについて、いつしか語られることがなくなってしまった。

    それには理由があった。ヤマトが帰還した際、人々は絶賛と熱狂でクルー達を迎えたが一段落すると芹沢虎鉄など保守主流派(旧イズモ計画派)は、虎視眈々と「ヤマト計画派」の切り崩しにかかった。

 特に、惑星レプタポーダにおけるガミラス反体制派との共闘協議やガミラス本星バレラスにおける敵国星人を救った行為を問題視し、敵に利するとして反体制のレッテルを貼り軍の主要ポストから外したり、ヤマトの行為そのものを批判し勢力を削いでしまった。

 また、地球の為政者たちはイスカンダルとガミラス本星が双子星だったということについても重視し、技術供与を受けたことや絶滅の危機から救われたことも忘れイスカンダル批判まで公然と行われる始末で藤堂本部長や土方、そして古代たちヤマトクルーを悲しみの海で溺れさせた。     

 さらに、最新鋭の宇宙戦艦アンドロメダなど五十隻に次元拡散波動砲を装備させ、スターシャ・イスカンダルとの波動砲を封印する約束も破棄、地球滅亡の悪夢から逃れるために産軍学の共同体を挙げて軍備増強に邁進した。   

 ヤマトのクルーたちは、こういった状況に対し、多岐にわたって徹底抗議するも議会多数派はこれらの強硬法案を数の論理で採決、民主主義の崩壊や自由への束縛を危惧し「自由と平和のための声明」を出したヤマトクルーを輸送船団や護衛艦のスタッフとして辺境への異動を強行した。   

 さらに憲法を無視して一部の人間の判断だけであらゆる権勢を手中にできる緊急事態動議や軍事費が突出する歪(いびつ)な予算編成の強行な国会議決にはじまり、極端な貧富の差などにみられる税の配分の非効率、不公平な裁判、高齢化・少子化による未来への不透明感、政府から圧力を掛け言論を封じるなど為政者による国家の私物化やあらゆる閉塞感が増すなか人々に享楽・廃退的気分が蔓延した。

 また為政者・マスコミの発する垂れ流しの情報を鵜呑みにし、若者は宇宙軍を目指した。
 だが、指導者たる為政者や扇動者本人たち、その家族らが戦地に立つことは決してなかった。
 
 それは近代以降、いつの世も変わらぬ風景であった。

 人々は、生き方・風俗・道徳・文化などあらゆる面において劣悪な生活を過ごし、退嬰的な世界観のなかで自分を見失って心の羅針盤を持ちえずにいた。    

 それは、物事の本質を見つめず自分で考えないことと同じであった。


4.反逆 ~ヤマト発進~


 テレサが全宇宙へ向けて発信した超空間通信は、出力を最大にして行ったため受信機側に過大な負担を掛け、内容が聞き取れず意味がわからない星域も数多くあった。

地球もそのひとつだったが真田と新見が解析し、地球首脳部へ意見具申した。
   その内容とは、
    ①  イスカンダルとの関係が深いらしいテレザート星から救援依頼があったこと。
    ②  ガトランティス帝国が高エネルギープラントを強奪しようとしていること。
    ③  ガトランティス帝国の脅威と白色彗星の関連を指摘、その二つが同じ星系に侵入するとその地域は破壊・蹂躙のうえ自由をはく奪され、男女とも奴隷として酷使されること。


などを訴えたもので合わせてテレザート星の座標位置も示されていた。


 しかし、地球内のコップの嵐しかみていなくて地球の恩人の友人と地球を含めた宇宙の自由が危機的状況にあるという「危機」が理解できない地球の為政者と議会・軍首脳部から救援におもむくことすら却下されてしまう。

 この深刻な状況から、古代進と森雪は真田とともに旧ヤマトクルーに集合をかけるが騒乱などの罪で拘束されてしまう。が、これを察知した島大介や山本、加藤、篠原ら航空隊員と榎本の活躍により拘束を力ずくで解き、ヤマトへ共に乗り込んでしまう。


 彼らが命を懸け、不屈の信念で戦ったイスカンダルの旅がほんの数年で歪曲され陳腐化し、さらには人々の生き方・風俗・道徳・文化が精神的に退廃・変質し自由が束縛されるさまに強い危機感を感じていたのだった。

 そんな心の闇が作り出す虚無や束縛、圧迫感を打破すべくヤマトを発進させること。沖田から学んだ「言葉ではなく行動」で示す。これは彼らの信念そのものであった。

 不敵にも大人によるパーティと称し、前回の旅で生き残った者、ヤマトと沖田艦長の偉業に呼応して乗り組んできた斉藤率いる空間騎兵隊、退役軍人を率いた土方なども乗艦しヤマトを発進させる。

 その様子を監視していた軍首脳部はまゆをひそめ反逆罪を適用して発進を阻止しようとするが、藤堂と星名が押しとどめ、再び旅立っていく彼らに藤堂は「沖田の子供たちがゆく」と、はなむけの言葉を添える。
 軍首脳部は整備も行っていない旧式の戦艦一隻でなにができるとタカをくくり放置してしまう。

 実はヤマトの整備は、C.R.S.の動作確認作業と合わせこの日を予期していた藤堂の指示で真田と榎本たちが時間をかけ目立たぬよう整備と十分な補給を行い、現在考えられうる最良の状態に仕上がっていた。またC.R.S.のおかげで、脳のニューラルネットワークのような、ハイブリッド化された艦艇となり真田ですら説明のつかない能力を持つ鑑となっていた。


 亜光速で恒星間飛行を続けるヤマトは、途中、輸送船団や護衛艦のスタッフとして異動させられていた南部や相原、太田などの主要スタッフ数十名と辺境で速やかに合流しつつ一路テレザート星を目指した。

 沖田艦長の薫陶を受けあの激戦を生き抜いた彼らにとってお互いのやりたいことはわかっていたので二言三言言葉を交わしただけでそれぞれがやるべきことを理解し任務につくことができた。

 要は、テレザートに到着したときの星の状況を確認したうえで攻勢をかけるのか守備にまわるのか、索敵行動をとるのか柔軟に対処するだけのことだった。
 
 それと合わせてイスカンダルとガミラスへ向けてテレザート星へヤマトが発進したことを伝える超空間通信を行う。可能であればガミラスとの共闘も視野に入れたからだった。

 
 「先生~」

 ヤマトを発進させ一段落した艦内のなかで、量感たっぷりのミディアムヘアーをかきあげ身に付けているものといったら下ぶちメガネとシーツだけをまとった裸の新見薫が

「先生ったら「シロシンタ」のラジオネームでYRAラジオヤマトのリスナーやってたでしょ。」

と真田志郎に対して愛嬌たっぷりにツッコミを入れる。

 イスカンダルの旅の最後、コスモ・リバース・システムが暴走した際、古代守の命のエレメントたる思念が消失したが、

「これがお前の意思か」

と絶叫した真田の熱いほとばしる想いを聞いたとき、薫は師と仰いではいても尊敬の念しか持ち得なかった真田への新たな思いがふくらみ急速に惹かれた。

 友、古代守に

「俺たち詩と数式だな」

と言われた真田のみせた意外な「熱さ」にしたたかに感じてしまったのだった。

  以来、ずっと無理やり真田のそばにあってこうして一緒の寝室で過ごすようになった今でもずっとその気持ちでいられた。さっきのツッコミにも反応しない真田をみて笑顔をみせ、

「愛嬌のないひと」

とぼやき、決して人前ではみせない反応をしめしてしまう。

 でも薫は愛されているのを十分に感じていた。

 「数式」なのは相変らずなのだが感情表現がヘタなだけだった。滾(たぎ)るように瞳を見つめ、いつもするように熱く抱きしめて欲しかった。愛される行為のなかに真田の本音が垣間見れたときゾクゾクするエクスタシーを感じてしまう薫だった。



 真っ暗な闇のなか篠原弘樹は、寝付けずにいたところ自室のドアがスライドし一瞬女性のシルエットが見え素早く閉じられた。
 
驚きつつ

「君、誰子ちゃん?」

と問うてみると、

「バカ」

とすかさず侵入者が答えその侵入者にひじ鉄を喰らってうめく篠原だったが、何度も味わったことのあるひじ鉄だということに気付き初めて動揺する。

「えーっ、だって・・・」「本当バカね」

言葉をさえぎり、小さな常夜灯により浮びあがった裸になったシルエットが熱い塊となって篠原のふところに飛び込んできた。

「えーっ。」
気持ちが動転し身動きもできず裸で寝ていた篠原の唇に唇を重ね

「静かに」

とダマらせる。

 闇の中で二人の息遣いが激しさを増すなか、山本玲の胸元に光る兄の形見のペンダントが律動し、さまざまな角度に何度も揺れる。

 篠原が

「玲(あきら)!!」

と情感を込めて強く抱きしめ、さらに愛撫を強めると耐えられなくなった玲があられもない声を出しキスを幾度も求める。篠原も愛撫に没頭する。

 第二次内惑星戦争終結から間もない少女時代、地球出身者から火星出身というだけで差別を受け、マーズノイドの証である紅瞳にコンプレックスを持っていた。兄を失ったことも大きかったが緋眼ということがトゲのようにわだかまりになって感情を表さないミステリアスな人間となっていた。

 ヤマトで航空隊に転属後徐々にいろんな経験を経ることでクールな印象も払拭したかのようだったが、心は複雑に屈折し玲自身もどうしていいか分からず不思議な行動となって人目にふれることもあった。

 そんな玲に対し、いつものように優しく話しかけた篠原がひじ鉄を喰らいつつも最後に

「君の瞳が一番好き。とても綺麗だ。」

とサラリと言った言葉が玲の心をはじけさせた。玲は何か気持ちが切り替わった心持になり、後から考えると思ってもみない大胆な行動をとってしまった。


「本当バカなんだから」

といいつつも篠原の部屋をでるときには、心身がリセットされすがすがしい気持ちだった。

 
 航空隊長の加藤と掌帆長の榎本が後から隣室の沢村に聞いたところによると

「お嬢が入って出てくるまで 8 時間キッチリでした。ルンルン鼻唄も出てました。」

それとすぐ

「篠さ~ん。」

と声をかけたんだけど素っ裸のまま半分気を失っていて、

「体ボロボロで起き上がれなかったですよ。」って、一体ナニをしたらそうなるんだと真剣に不思議がる加藤と妙に面白がる榎本だった。



5.圧倒 ~白色彗星~





 その頃、ガトランティス軍の本隊とこう着状態であったガミラス軍基幹主力艦隊3万隻は、開戦当初、奇襲攻撃を起点とする一連の攻勢より一応の戦果を得たが、白色彗星がサレザー星系に入るとその状況が一変した。

 それは受信画像にデスラー総統が映し出され戦闘を中止するよう命令したからだった。
 混乱が生じ、ガミラス艦隊に隙が生まれた。

 この機を逃さずガトランティス軍は攻勢を仕掛け、それと呼応し、ガミラスの主力艦隊中央部に白色彗星が突入、特殊なシールドに守られた彗星内から連射される火焔直撃砲の威力に2万隻の艦隊がガル・ディッツ提督ごと消滅、ガミラス艦隊の損耗率は8割を超え宙域から逃げ堕ちるしかなかった。

 散っていくガル・ディッツの思念のなかでイメージされたのは娘のメルダと優美なエリーサ・ドメルの笑顔だった。ガミラスを立て直すという激務のなかどんなに癒されたか。
 しかし老いた男の思念を蹴散らしこの星域に光芒が鋭く瞬いた。

 さらに、近傍の惑星を火焔直撃砲が破壊してしまうその凄惨な光景にサレザー星系の人々は声を失い凍り付いてしまった。

 一体、デスラーはどうしてしまったのか。


 亜空間回廊内で巨大戦艦・デウスーラII世によるヤマト襲撃を行ったデスラーは、ヤマトの実体弾の逆撃を受け艦艇ごと爆死したと思われていたが、回廊内で偵察行動していたガトランティス軍に助け出されて今は白色彗星内部に囚われていたのだ。

 ズォーダー大帝は、デスラーのクローンを作り、クローンに戦闘行為を中止させるように命じたのだ。この謀略が成功すると高笑いしながらクローンを抹殺し、デスラーをデウスーラⅢ世に載せ宇宙へ放逐してしまう。殺してしまうのではなく自分の帝国が滅亡していく様をみせつけようとしているのだ。

 白色彗星は、進路をテレザートに向け宇宙を突き進む。


 「蛮族め !」
 この巨大な質量ごと遠大な距離をゲシュタムジャンプしてしまう大げさな科学力にタランは驚愕しつつも憤りを隠せなかった。洗練された科学力でなく規模がただ大げさな野蛮人としか思えなかったためだった。

 さらに白色彗星は、高速中性子と高圧ガスの嵐が人工的に形成された白色矮星とみていたタランだが、それと同時に、超強力なゲシュタム・フィールドで彗星を覆ったシールドを形成していることを看破した。

 「聞いた話ではデスラー総統はヤマッテという戦艦一隻を沈めるために自分の人民をも犠牲に波動砲を撃とうとしたらしい・・笑止の極みだな。」白色彗星のなかでサーベラーがそのことをあからさまな軽蔑の想いや氷の視線とともにタランに伝え「諌めることもできないのか。なぜお前はそのあとも彼に従うのか。決して報われない。見捨てればよいのだ。」と言い放った。
 タランは、
「決してお見捨てしない。従うのみ。」と静かだけれども深い想いをこめてさらに
「決して」と語った。
サーベラーはただ黙して頷いただけであった。

 だが今は・・今は、宇宙を放浪するしかない失意のデスラーと付き従うはタランひとりであった。

6.破綻 ~アンドロメダ~


 テレザート星では、ヤマトとメルダ率いるガミラス艦隊の共闘作戦が展開され、反射衛星砲や瞬間物質輸送機、次元潜航艦などを用いてガトランティス軍を翻弄、隊列を分断、乱れたところをヤマトとガミラスの高速戦闘艦による兵力の高速移動と兵器の集中を行い、五倍の勢力のガトランティス軍の艦艇を撃破し、星の封鎖を解くことに成功した。


 テレサと会する一同。
「私はテレサ、テレサ・イスカンダル」
「イスカンダル!」「イスカンダルの方だったのですか。」その名前に度胆を抜かれる古代と島。

テレサの美しさや聡明さ、科学者としての能力に島が一目ぼれしてしまう。情報交換が行われテレサが語り始めた内容はヤマトクルーにとって驚愕のものだった。


 小マゼラン銀河の外縁部でガミラスと小競り合いしエルク・ドメル提督との戦闘では大敗を喫していた「蛮族」ガトランティス帝国は、デスラー総統を失い惑星蜂起が頻発し版図拡大政策が裏目に出たガミラス帝国が衰弱したことから次々に大小マゼラン銀河の内縁部まで侵攻、自分たちの権益拡大を図っていたが、真の狙いは隠されていた。

  それは超過去において、非常に高密度の「反物質」を人為的につくることが出来た古代文明の技術を盗み、今保有する最新技術と組み合わせて宇宙を支配下におくことであった。

 テレサが救援を求めたときに反物質があると言ってしまったら他の星系からも攻撃を受ける可能性があるので明確にできなかったことも判明する。

そしてその文明とは「アケーリアス文明」であった。極めて発達した文明を持っており、バラン星を中心とした超空間ネットワークを構築し、宇宙各所に亜空間ゲートを設置した文明であり、既に滅び去った文明でもあった。

  次元波動砲による恐怖支配により大マゼランを席巻し、後に精神的に昇華され品格ある文明となったイスカンダルがその「技術」を秘かに受け継ぎ、全ての銀河を壊滅しかねない「反物質」の極限の破壊力に恐れ、サレザー星系から遠く離れたテレザート星にその「技術」を封印していた。
 そうして代々イスカンダルから「科学者」兼「護る者」が置かれそれを代々受け継ぐものを「テレサ・イスカンダル」と呼んだ。



 テレサは美しく聡明、インスピレーション豊かな科学者でスターシャの従姉妹であった。彼女はその豊かな才能を駆使し、今までよりもさらに反物質を高密度に圧縮・安定させる技術を完成させていた。

  また瞬間物質輸送機の基礎理論を構築したのも彼女であった。先年、ガミラスへの基礎理論供与により、エルク・ドメル提督が七色星団でヤマトを苦しめたことを彼女は知らなかった。

 さらにテレサはその明敏な感覚によりヤマトクルーの航海長 島からの熱烈な好意を感じとり、それを自然と受け入れることに抵抗が全くない自分に驚きを隠せないでいた。
 心が穏やかで真摯な島に魅力を感じていたのだった。


状況が俯瞰できたヤマトクルーは、その圧倒的な技術で構成された白色彗星をどう攻略するか検討を進めるが、突破口が全くみつからない。

 一方、銀河系外縁部においても、突如浸蝕してきたガトランティス軍に対し、緊急事態動議を発動しあらゆる権勢を身にまとい拡散波動砲でガトランティス軍を蹴散らしたアンドロメダを旗艦とする地球防衛艦隊は、芹沢虎鉄を大将に据え、ようやく重い腰をあげる。

 行く手をさえぎるガトランティス軍を次々と拡散波動砲で撃破し、その以外な自軍の出血に驚いた大帝がみずから白色彗星をもって懲らしめると宣言し、コースを変え銀河系外縁部に肉薄する。

 アンドロメダを旗艦とする地球防衛艦隊五十隻は、白色彗星に相対しロングレンジ攻撃による拡散波動砲で攻撃するが本当の意味で強大な科学力を持つ白色彗星帝国の前に科学力もあらゆる権勢も全く通用しなかった。
 仕方なく離脱を図かり側面攻撃に切り替えたときに異変が起きた。時空振が発生し、宇宙が裂け、地球防衛軍はその裂け目に飲み込まれ自ら墓穴を掘ってしまう。
 以前ユリーシャ・イスカンダルが危惧し真田が気づかされた「ユークリッド二次元ブラックホールの破綻」が起こってしまったのだった。


 総毛立つ地球首脳部。為政者・マスコミ・産軍学などのあらゆる指導者たちは華々しく破綻した軍拡路線を前に何も為し得ず、人々をいたずらに混乱させただけであった。
 地球の人々はふたたび絶望する。

 自らの艦隊に損害を与えた「地球を死の星に変えてやる」と言い放つズォーダー大帝だったが、テレザート星の封鎖がヤマトとガミラス艦隊の共闘作戦により破られたことを知って激怒し再度、テレザート星へ向かう。地球は自らの才覚で切り抜けたのではなくかろうじて難を逃れただけだった。


7.突破口



 アンドロメダと白色彗星の戦いを観た真田と新見は、タランと同じく白色彗星が巨大な波動防壁を連続して展開していることを看破し、その発生源が彗星の渦の中心核という推論に達する。

 テレザート星へ集結している艦艇のなかで唯一、次元波動砲を備えるヤマトの封印を解き、ヤマトを中心とした作戦行動により最終的に彗星内部へ潜入しその動力源を破壊する戦略構想をたてる。
 「言葉ではなくその行動で。」ヤマトの決断にユリーシャは、まるで沖田がいるみたいと独白する。
 さらに戦術にあたって、反物質への影響を極力排すべく白色彗星がテレザート星を眼下にとらえる前にその決死の作戦を実行することとした。

  「これから白色彗星の正面へ出て彗星の進撃を止め彗星の破壊を目的とする作戦を開始する。イスカンダルの旅よりもっと厳しく苦しい戦いが待ち受けるだろう。だが、これは命と自由を求めるための戦いだ。」「我々は生きている。命の輝きを見せつけるんだ!!
   と古代が全艦に告げ、さらに戦闘開始となるこの言葉を口にする。
 「ワープ」「ワープ」島が続けて復唱する。指示を淡々とこなし航海長の重責を果たす島の存在がどれだけの安心感と信頼感をクルーに与え続けていてくれるか古代には十分に判っていた。
 押し寄せる白色彗星の正面に小ワープで対峙するヤマト。
 
 「正面に敵艦!」「何隻か。」「たった1隻・・これは地球のヤマッテだ。」怒号がとびかうが失笑の笑みを浮かべた報告がサーベラーのもとへ届けられ味方の士気の緩みに眉をひそめる。
 進撃する彗星の正面に出現した戦艦がヤマトであるとサーベラーから知らされたズォーダー大帝はただ一言

「たかが戦艦一隻 ! 押しつぶせ !!」

と命令を下す。サーベラーは自分の部下たちの士気が下がっているのは大帝の言動に時折みられる見下すような意識が影響し帝国に滅びの兆しが表れているようにも感じたがそれを打ち消すかのように不毛な考えに舌打ちし戦況に意識を戻した。

 「エネルギー充填120%」南部が冷静に読み上げた数値を確認した古代が照準を定め終わる。
 「狙いを狂わせるな敵のシールドが破れないぞ」真田の注意にさらにきを引き締める。

 「波動砲撃て!!!」土方の号令により  まさに肉薄する白色彗星の渦の中心核に次元波動砲を撃ちこむヤマト。 
 
 絶望感に苛まれ地球を含めたあらゆる星系の人々がヤマトの一撃に自分たちの祈りを込めその行方を見守った。

 その一撃は、白色彗星の進撃をとめ、彗星を覆っていたシールドと高速中性子と高圧ガスの嵐を消すことに成功した。

 歓喜に沸く人々。人々は精神的に昂揚し、心の闇、靄(もや)が払拭された感覚に陥った。
 
 だが、みんな喜んだのもつかの間だった。

 白色彗星内部には、物質のなかでも一番固いとされるウルツァイト窒化ホウ素を主材料とした複合結晶体で構成された直径2万㎞を超える巨大な球体がそびえ立っていたのだ。

 さらに彗星の尾の部分、後端から九つの攻撃衛星が現われ、無防備に近づいたガミラス戦艦30隻を一瞬で葬りさり、巨大な球体の周りを高速で移動し外敵から防御していた。


 「畜生 ! 」「助けてくれ !  ! 」「我々の攻撃が装甲を貫通しません。」「逃げろ」
 びくともしない強力なシールドを備えたその禍々しい美しさにあらゆる星系の人々は再び絶望や無常感そして虚無にとらわれた。

  「厳しい・・・沖田・おまえならどうする」土方が独白する。


 彗星本体と九つの攻撃衛星からの激烈な火力によってたちまち劣勢に追い込まれたヤマトとガミラス艦隊であったが、高速移動する島が操艦するヤマトとメルダ率いるガミラス艦隊が両方の火力を引き付けるその隙に、別動部隊を率いるテレサ・イスカンダルが反射衛星砲や瞬間物質輸送機を用いて九つの攻撃衛星への攻撃を果敢に行い彗星の攻撃力を削いでいった。

 それと同時に古代と真田、フラーケン、バーガーそして斉藤が率いる空間騎兵隊全員を含む「特殊工作部隊」が次元潜航艦を用い彗星の戦艦射出口の開口部から内部へ突入する。
しかし、そこには驚愕の空間が広がっていた。幾千の敵に囲まれても決して動じない男たちが声もなく動揺し押し黙るしかなかった。
「なんだぁこりゃ! 」黙っていられなくなったバーガーが思わず叫ぶ。
「球体のなかにでけぇ空間がある。」陽気な斉藤もようやくしゃべりだす。

ずっと押し黙って内部構造を観察していた真田が驚嘆の声をあげ皆が注目する。
「真田さん、いったいこれは」古代がようやく口を開いた。
「このテクノロジーはガトランティスでもガミラスでもない。」
「凄く・・秀逸・・だ。これはダイソン球だ。いわばスペースコロニーの究極の姿と言ってもいい。」
彗星の深部のさらに奥深く次元潜航艦は突き進む。
臨戦態勢された数千隻もの艦艇が未だ停泊しているすぐそばを通過していくのだった。
ここで真田は確信をもって
「この彗星は、亜空間ゲートの機能も備わっている。」と伝えると、
バーガーが
「待った。いわば移動式のゲートを持ち歩いているって仕掛けだな。それでガトランティスの蛮人どもが突然現れ悪さをしているんだな。」
次元潜航艦艦長であるフラーケンが
「それでどこへ進めばいいか指示をもらいたいな」
 
 突然、次元潜航艦に恐ろしい衝撃がきた。
亜空間ソナーブイが張り巡らされ、逐一彼らの動きは把握されていた。
 「うぉっ」「くっ」次元爆雷がその効果を発揮していた。体を保持するための手すりや安全帯が外れて潜航艇の側面に叩きつけられたら重症になるのは必然となるほどの衝撃だった。
 「被害状況は!」フラーケンが叫ぶ。
「右宙翼トリム破損」「防護隔壁破損」「推力と酸素レベルともに5パーセント低下」
「艦長、宙雷艇20隻と亜空間ソナーソナーブイが本艦をトレースしてますぜ」冷静な声で部下のハイニが告げる。
 「フン、歓迎委員会がお出迎えならその期待に応えるだけさ。」
あくまでも淡々とこたえるフラーケン。それを聞いた斉藤が何も言わず不敵な笑顔を皆に返した。
 「真田、時間的距離でいい・・あとどのくらいだ」艦が宙雷によって激しく揺動するさなかフラーケンの問いに真田も簡潔に 「30分」と答えさらに、
「みんな聞いてくれ・・基本ラインは当初どおりだが、亜空間ゲートやこの彗星を動かす動力がそろそろ見えてくるはずだ。そいつを破壊するぞ。」
 「待ちくたびれたぜ」バーガーや斉藤率いる空間騎兵隊、真田、古代たちがコバンザメに移っていく。コバンザメがたちまち人で埋め尽くされる。

 激しい揺動が無限に続くかと思われた頃、フラーケンから
 「真田これではないか」とモニターが明滅する。
 フラーケンが示した映像は人工太陽であった。「バランにあったエネルギーコアに似てるな」バーガーが答えると真田が「似てるんじゃなくてもっと効率よくコンパクトにしたものだ。アケーリアス文明が残した古代遺跡ってヤツさ
 「何だってガトランティスのヤツらどうやって手に入れたんだ」エネルギーコアを直接見たことのあるバーガーが当然の疑問を投げかけるが、
 「そんなことよりどうやって壊すんだ。そろそろ教えてくれ。波動砲はないぞ。」斉藤が皆が一番聞きたかった質問を行った。
 「フラーケン初めてくれ。」真田が続けて「高貴な手段さ」と言って軽く微笑んだ。古代進はその笑みが新見薫や兄の古代守を想起させたが何故か口にするのははばかられた。

 「土方さん!」雪が声を荒げた。
 彗星の攻撃衛星からのミサイル攻撃によりヤマト艦橋の直上に破壊音と強い衝撃が起こりまき散らされた多量の破片が直下の土方を貫きおびただしい鮮血が流れ出た。
 駆け寄り泣きじゃくる森雪に
 「持ち場を離れるな。ふっ今回の航海は楽しかった・・・いい女になれよ・・古代・・後を頼む」それが土方の最後であった。

 「いやぁっ」再び雪の絶叫が艦橋にコダマした。

 「注意をそらすぞ1番2番撃て!」「メインタンクブロー浮上する」爆雷艇3隻を撃沈せしめ浮上する潜航艦に容赦なく爆雷艇が砲撃を加えようとしたときそれら爆雷艇17隻が一瞬にして爆破される。
 「古代大丈夫か」「古代さん玲です。」陽動のため先に彗星に突入し総数が1/3に減った加藤率いるコスモタイガーや山本玲のコスモゼロが次元潜航艦を上空援護していたのだった。

コバンザメを発進させエネルギーコア管理用通路にとりついた「特殊工作部隊」がさらに奥深く突入する

(工事中)


 激しい戦闘を制するも真田や加藤を失い、斉藤以下空間騎兵隊が全滅、さらにガミラス艦隊の1000隻をこの戦いで失っていた。兄と同様だった存在の真田や友を死地に追いやった自分に苦悩する古代。しかし古代は彗星のエネルギー動力源を破壊することに成功した。
 人々は苦しい戦いを制し、彗星の核を崩壊させこの戦いにピリオドを打ったのだった。



8.終わりの始まり


  歓声をあげ歓喜する乗組員たち。
 再びあらゆる星系の人々がヤマトとガミラス艦隊の働きに感謝と歓喜を示した。

 しかし、これは終わりの始まりにしか過ぎなかった。

 「時空振が発生。」「巨大な質量と熱量をもつ何者かが出現 ! 」
 それぞれの艦隊のオペレーターが絶叫する。
 
 「何か ! 」古代とメルダがすぐさま反応する。

 答えは得られなかったがすぐに正面のモニターで確認できた。

 「まだ終わりではないだと ! 」メルダが絶句する。
 「来るぞ !! 」「第一級戦闘配置を維持。」古代は艦橋に響き渡る大声で注意喚起する。

 
 爆破寸前の白色彗星からゲシュタム・ジャンプ(ワープ)することで誘爆することを避けた全長50 ㎞を超える超弩級戦艦がテレザート星の眼前に出現したのだった。
 
 「遊星爆弾で死んだ方がまだマシだった」「俺たちは負けたのか」「くそったれ」
 度胆を抜かれ圧倒され、度重なる危機感・絶望感や苦しい状況に精神に破綻をきたすものが続出する。

 その時であった。
 絶望の心の闇が作り出す虚無を打ち払うかのようにヤマトが静かに前進を開始した。
 
 「ヤマト発進」「第一戦速」
 厳かに古代は命じた。

 軍だけでなくあらゆる組織が崩壊、絶望し逃げ惑う人々のなか超空間通信で、巨大戦艦に立ち向かうその荘厳な艦艇を確認した藤堂本部長が
 「ヤマトが往く」とだけつぶやく。それ以上はこみ上げてくる感情と嗚咽と落涙で何も言えなくなったのだ。
 
 地球のひとびともシンクロしたようにざわめく。
 「ヤマト・・」「ヤマトが動きだした。」
 このとき地球の人々は今までの自分たちがやってきたことを反芻していた。
 ヤマトの行動に魂がこんなに打ち震え引き裂かれる思いがするのは何故だろうかと。
 物事の本質を見つめず自分で考えないことを止め、ヤマトやイスカンダルへの批判、失望感、嫌悪感すべてが霧が晴れたようにひとつひとつ自分の魂と会話していた。


 ズォーダー大帝は、ご自慢の白色彗星を破壊され欲しいものが手に入らない状況に苛立ち、反物質に外力を与えてはならないと正論をもって諭した側近サーベラーの絶望的な進言も聞き入れず

 「反物質も滅びた文明の技術も小言も不要」
と言い放ち、

「テレザートを破壊せよ」
と命令しながらサーベラーの眉間を狙って小出力のレーザー銃のトリガーを引き絞った。
 
 サーベラーはこれまで尽くした大帝がなんのためらいもなくわが身を滅ぼすのを呪う隙すら与えられなかった。ガトランティス帝国におけるありとあらゆる権力を一人の者に集中させた最右翼であった美しいサーベラーの哀しい末路だった。

 テレザート星は超弩級戦艦から放たれた巨大な火焔直撃砲で奥深くまで破壊されてしまう。

 その行為により、物質世界から厳重に隔離・貯蔵されていた反物質が物質と反応して「対消滅」し、「超新星爆発」を人為的に起こした。その結果、対消滅した中心点を特異点とする超巨大な質量のブラックホールが形成され、事象の地平面を越えたものを外部へ逃がさず、光すらも全て呑みこんでいった。

 ズォーダー大帝は、

 「お前達たちを殺し銀河の星々を消し去る。ガミラスの青虫どもも滅ぼす。イスカンダルの気取った女は奴隷にしてくれる。俺が創造主となり宇宙を創り替えてくれよう。宇宙は俺のものだ。」

 と高笑いし、「抹殺せよ。」

 とさらなる攻撃を命じた己の画像と音声を全宇宙へ最後通牒として流させた。

 そのあまりの傲岸不遜さに全ての人々は怒りと共に凍り付いた。


 味方の多くの艦艇が火焔直撃砲により傷つき大破し、超巨大なブラックホールへ呑みこまれていく辛酸を極めたおぞましい光景に森雪は

 「この宙域にはひとの憎悪しかない。なぜ傷つけるの。なぜみんな死ななければならないの」
 「愛し合うことだってできるのに」と叫び、沈痛な面持ちのクルーたちは声もなかった。

 古代はそんなクルーたちを叱咤激励し、

 「違う ! 断じて違う。生命は誰かの持ち駒ではない。精神は操作されるものでは決してない。」と宣言する。

 そして静かな決意とともに闘志を奮い立たせた。

 「俺たちは戦争なんかしたくない。誰も殺したくない。だが愛するものを死に追いやろうとするものは許せない。」
 「悪魔め俺はあきらめない。最後のひとりになっても戦うぞ。」

 しかし、超強力なゲシュタムフィールドによるシールドを備えたこの超弩級戦艦にはあらゆるビームもミサイルも通用しなかった。おそらく波動砲すらもムダであったろう。その圧倒的な技術力と破壊力にさらに多くの艦艇が蹂躙され破壊されていく。

 超弩級戦艦は、さらにこの状況下でも難なくブラックホールから抜け出す勢いを示すが、ヤマトとガミラス艦隊の仲間たちは抜け出せずじりじりと吸い込まれていく。




9.襲撃


 「ここまでか・・・」戦闘宙域にいた皆が、勝利が遠のく喪失感に襲われかけた「その時」、ガミラス艦のオペレーターが突如

 「超弩級戦艦に天頂方向から一隻の艦艇が突入 !! 」と告げる。
 「何者かっ」メルダが怒鳴る。

 それには答えずオペレーターは、観察を続ける。
 「凄い。シールドで覆われた強固な装甲の第10層まで貫通しました。ゲシュタムフィールド中和磁場を帯びて・・うっこっこれはデウスーラの識別信号です。」

 「巨大戦艦の推力が落ち始めています !! 」別のオペレーターも叫び、

 最後は絶叫する。
 
 「デスラー総統万歳 !!」

ガミラス全艦艇がどよめいた。

 突入した艦艇はデスラーが乗艦するデウスーラⅢ世であった。彼は、ズォーダー大帝が先ほど「銀河の星々を消し去る。ガミラスの青虫どもも滅ぼす。イスカンダルの気取った女は奴隷にしてくれる。俺が創造主となり宇宙を創り替えてくれよう。宇宙は俺のものだ。」と高言した高笑いをモニターに受信した後、タランに襲撃を命じたのだった。

 悲鳴にも似た歓声が再び上がる。

 デスラーからヤマトへ緊急通信が入り、「古代。何をしている。神を騙(かた)るケダモノもろとも私を撃て」デスラーが古代を叱咤する。

 「デスラー」

 動揺したのは一瞬であった。
 
 決断した古代はすぐさま、

 「島最大戦速、天頂方向からブラックホールの奈落へズォーダーを蹴落とせ」

 「南部、目標シールドの消えた動力部。主砲連続斉射 !」

 「手ぬるい。全艦、残った火力を敵動力部へ全て叩き込め」「火力を一点に集中せよ !! 」

 古代とメルダに叱咤され巨大戦艦の天頂方向からヤマトのショックカノンや残存ガミラス艦隊から放たれたありったけのビームとミサイルが超弩級戦艦に吸い込まれ局所的に大きな爆発を生じた。
 これにより超弩級戦艦の推力が減りブラックホール側へ落下したことで「ヤマト」「ガミラス軍」「超弩級戦艦」三者の位置がクロスしながら劇的に入れ替わった。
 天頂方向からみるとヤマトとガミラス艦隊が巨大戦艦の上部に位置を移しブラックホールへ巨大戦艦を叩きこもうと奮戦している様子が俯瞰できた。

 だが、「大き過ぎる・・・。」破壊は限定的なものであった。

 その状況を観察し、意を決した古代が波動砲の発射準備を命じたとき、

 「冗談ではない」「俺は宇宙であり創造主、そして神なのだ」「このウジムシどもを撃滅せよ !」
とさらに激昂したズォーダー大帝はさらなる迎撃を命じ、デスラーが乗艦するデウスーラは巨大戦艦の動力部の一部とともに爆逐寸前であった。

 その時、ヤマトの正面スクリーンへテレサ・イスカンダルが写し出され、驚いた島や古代たちに
 「島さん心配しないで」「大丈夫 !」と励ますように愛くるしい高貴な笑顔を魅せた。
 超弩級戦艦の鉄壁のシールドがデウスーラⅢ世によって中和されたことを確認したテレサ・イスカンダルは工作鑑の瞬間物質輸送機を用いて「反物質」を超弩級戦艦内部艦橋のズォーダー大帝の玉座へ転送することに成功したのだった。

 テレサはテレザート星に貯蔵されていた不安定な反物質をいくつにもわけて高密度に安定化させた白色物質を完成させており、その一つを用い、強力なシールドを備えた50㎞を超える巨大な超弩級戦艦といえども彗星と同様に内部からの攻撃には耐えられまいと判断したのだった。

 再び、対消滅した反物質による物凄い爆発が生じ、激烈な閃光がふたたび宇宙の闇を照らし出す。「ぬうぉぉっ・・・・」このときズォーダー大帝と超弩級戦艦は一瞬で素粒子レベルまで分解され、痛みの知覚すら感じないまま消滅していった。

 デスラーは、ズォーダーと刺し違えスターシャとの昔の約束を守れた愉悦とやすらぎのなかで自分を縛っていたあらゆるものから無限に解放されたのを感じた。
 タランもデスラー総統に忠誠を尽くす軛(くびき)から自由になったのを感じた。サーベラーが羨ましがったようなそんな気さえしたのだった。

 幸いなことにブラックホールから抜け出すことの出来なかったガミラス艦艇がこの再爆発によって推力を取り戻し脱出することができた。これによりメルダたちはようやく一息つくことができ残存艦艇を確認できた。
 
 「状況を報告せよ。」

  メルダの命令にオペレーターが報告するが、「味方残存艦艇300隻」 「ヤマト艦影識別できず。」悲報が続く・・・・。

 ねばり強く最後まで戦域に留まり超弩級戦艦を足止めするため戦っていたヤマトは浮上しなかった。

 「そんな・・雪、古代・・」ユリーシャがその報告に絶句し、「蛮族どもめ」メルダは目をつむり悔しがる。



10.ブラックホール



  反物質の対消滅に巻き込まれたか。
 
 ユリーシャとメルダが目を合わせ深く落胆したその時、オペレーターがふたたび絶叫する。
 
 「ブラックホールが作る漆黒の闇のなかから浮上する物体があります!!!」
 
  「何か!」 メルダの厳しい叱責が飛ぶ。

 コンソールを荒々しく叩きオペーレーターが解析する。
 「こっこれはヤマトです。ヤマトが浮上します。」


  漆黒の闇の中から現れたのは波動防壁にシールドされたヤマトであった。

 「ああっ」「雪」
 メルダとユリーシャのふたりは抱き合い、深い驚きと感動の声をあげる。

 一方テレサは、巨大なエネルギーを同時に近接して再び爆発させることによりホーキング輻射を人為的に発生させブラックホールを蒸発させることに賭けたが、この近接するブラックホールは、合体してさらに巨大な質量を持つブラックホールとなりつつあった。

 工作艦のユリーシャが慌ててコンソールを叩き、ブラックホールの質量計算をしたところ、太陽質量の数千万倍の大きさに膨れ上がり、あらゆる星間物質を吸い込み続けていた。

 さらに空間密度も高くなり吸い込まれてきた星間物質やガス同士が衝突しあい巨大な銀河衝撃破により、さらに遠くの星々の重力バランスを加速度的に崩壊させ始めていた。

 電磁波で観測するとあたかもこの星系が沸騰したようであった。


11.緊急通信


  テレサは手の施しようのない状態であることを知った。最悪宇宙が裂け、超新星爆発が連鎖的に発生し全ての星々が原子と中性子や素粒子に戻ってしまうと予測する。 

 この予測がこの宙域にいた全ての人々に伝わると自分の星や愛する人も救えない状況に皆が戦慄する。

  そこへ、スターシャ・イスカンダルより緊急超空間通信が入る。

 「まだ、方法があります。」と驚く一同に構わず、

    「ヤマトのコスモ・リバース・システム(C.R.S.)を使うのです。星のエレメントを取り戻すのです。」 

   テレサ・イスカンダルがすかさず反応する。

  「そうか、ブラックホールはもともと星の一生のうちの最終形にすぎない。だから、C.R.S.を使っていろんな次元に飛び散ったこの巨大ブラックホールのエレメントを元の星間物質に戻すというのね。でもどうやって・・。あっ」声をあげ思わずスターシャを見返すテレサ。
 
   スターシャの表情からは何も読み取れず目を逸らし皆に説明するテレサ。 新見が皆より先に理解し、真田を失った喪失感すら忘れ驚愕の表情となる。 

 それは、ブラックホールとは反対の性質を持った時空、ホワイトホールを人為的にブラックホールの反対側へ作り、ブラックホールとホワイトホールがペアになったワームホールをつくることで異常な重力場を均衡させ安定させる。

 そしてコスモ・リバース・システム(C.R.S.)を使って最後はワームホールを縮小させようというものだった。  
  
 作戦の詳細を聞いた古代らヤマトクルーは沈黙し、メルダやユリーシャは反対する。     
 「絶対ダメ。お姉さまいくらなんでも無茶よ。質量が違い過ぎる。」ユリーシャが強く反対する。
  作戦は決行された。状況がさらに悪化し予断を許さないものとなっていたのだ。  
 
 古代は、嫌がる島たちや生き残った要員たちをヤマトから全て退去させた。森雪も退去させようとしたがムダだった。 

 古代は雪を静かに抱きしめた。深い沈黙のあと

  「ばかだよ。君は・・・でもずっと一緒だ。絶対離さない。」

  「進・・・離さないで。」



 

12.光芒の宇宙


オートパイロットによりブラックホール正面に対峙したヤマトは、反物質が対消滅し一番の高重力場となっているブラックホールの中心点へ次元波動砲を撃ちこむ。

 何も為しえないと感じ始めたころ、ブラックホールに変化が生まれた。ブラックホールの中心部分の底が抜け反対側へホワイトホールが発生した。ワームホールが形成されたのだった。ガミラス残存艦隊クルーや近傍の星系からも歓声が再びあがる。

 ブラックホールは、質量・自転・電荷の3つの性質しかもたないといわれている。その生成過程で星間物質のもつ他の性質を全て失ってしまう。

 その失ったエレメントをコスモ・リバース・システム(C.R.S.)によって補完して元の星間物質へ戻すことでブラックホールを消失させる作戦だったが、そのためにはワームホールの中心点でコスモ・リバース・システム(C.R.S.)を作動させなければならなかった。それは一つ間違えばワームホールの高重力場に捕まりヤマトが圧潰する危険をはらんでいた。

 作戦の無謀さに、ユリーシャが強く反対したのも無理はなかった。

 「先生」と新見は古代と雪の任務の困難さに真田の姿を捜してしまう弱さを人知れず訴えてしまう。

 だが、ワームホールが形成され安定すると中心付近の異常な重力が減少し、星系そのものの沸騰が抑えられたことをテレサが確認した。

 だがいつまでもこのまま安定するわけもないため、テレサは瞬間物質輸送機によりワームホールの中心点にコスモ・リバース・システム(C.R.S.)を自動で作動させたヤマトを転送する。

 激烈な振動がヤマトを襲った。艦艇の機能維持すらできずコスモ・リバース・システムも作動を停止してしまう。さらに艦艇外装壁面にひび割れが生じ艦艇にもの凄い重力が作用して圧潰しはじめる。


 このミッションが失敗に終わることを悟った古代は隣の席に座った雪を見つめやさしく微笑み手を握りそのたおやかな肢体を自然に抱きしめた。雪もこれにこたえた。

 ふいに古代は、雪の美しく しなやかな肢体にやさしい愛撫や激しい抱擁を幾度も繰り返し 互いの内宇宙の根源を交わらせたこと、そして雪も魂を燃やし息も絶え絶えに一生懸命こたえてくれたことを思いだす。

 雪を失いかけた経験から会うときはいつも全身全霊で魂と身体を重ね合わせたのだった。雪も同じ想いであることを瞳をみて確信する。

 しかし振動がさらに激しさを増した。

  「もうここまでか・・・・・ユキ・・もう逢えない・ね。」


 その刹那、古代は見た。熱く激しい想いで。
 
 今回の戦いで死んでいった土方、真田、加藤、斉藤、デスラー、タラン、ディッツ、バーガーそして沖田艦長と兄 古代守たちを。
   これらのひとびとがやさしく微笑み古代と雪を見つめているのを感じ戦慄が古代の体中を駆け巡ったときヤマトが光り輝き宇宙の闇をみたび照らした。


 激しい振動にさらされるなか光に包まれた古代は、血が逆流するような形容しがたい情念に包まれ彼らを見続けていた。

 宇宙への思いを宿した彼らの魂を「命のエレメント」としてコスモ・リバース・システム(C.R.S.)がふたたび作動したのだ。 

 艦艇を長く揺るがしていた激しい振動が止み、無限の光の中にいると感じたとき古代と雪の視界が開けた。

 奇跡が起きた。誰もが何が起きたのか理解しえなかった。わかっているのはワームホールが消失したことだけだった。

 危機を脱することができたのだ。ひとびとは歓喜を爆発させた。

 テレサとスターシャ、ユリーシャがそれぞれ微笑む。ヤマトが古代と雪が高貴なる責務を果たしてくれたのだ。モニター越しに古代守の姿を久しぶりにとらえることのできたスターシャは心を守で一杯にした歓喜にとらわれていた。
 
 古代は彼らが助けてくれたことを心の底から感じていた。

  先輩や友を死地に追いやったことに変わりなかったが死んでいったものへの責任を果たすまで、生きると決意する。涙する古代の腕のなかで雪が優しく寄り添う。



13.輪廻

  
 今回の戦いでも示されたが超弩級巨大戦艦に奇襲を受けても全く動じなかった古代がふと艦橋を見渡すとギョッとして度胆を抜かれる。
 そこにはなんとテレサ・イスカンダルが島の傍から離れず島と手をつなぎ見つめ合い談笑しているではないか。
 さらに篠原と山本玲も堂々と深く静かに抱擁し命の輝きを確かめあっていた。
 
 驚きに体が硬直している古代を促すように雪が「進さん」と控えめに声をかける。
 「雪、・・あれは一体?」
 「ふふっとても素敵な組み合わせね。」

 ユリーシャとメルダはガミラスを再建するためサレザーへ帰還、その際、ユリーシャが古代に対し、意味深な「オ・ジ・さん」と声をかけて去っていく。
 振り回されるままの進に対し森雪が謎解きをしてスターシャ・イスカンダルと兄守に子供がいることを理解するがこれまた以外な人間クサい兄の奔放さに驚かされる進。

 続けて雪から「私も子供が欲しいな」と耳打ちされる。
 トドメを刺され翻弄されっぱなしの進であったが、やっとやさしく微笑み返し雪にキスをする。
 
 古代たち生き残り組は再び地球へ帰還を果たす。
 地球をとりまく危機に対し責任を果たすために。
 自分のなすべきことをするために。


 無限に広がる大宇宙。
 そこは宇宙創造にまつわる星々の万物の法則である神の数式にもとづいた不思議な営為が絶え間なく続いている。

 今回のそれは星の瞬きに比べればほんの一瞬しかない出来事であった。
 そして人類ホモ・サピエンスにとって永遠に感じられる瞬間瞬間が連綿とつながる時空連続体であり、その刹那刹那で、命の輝きはあらゆる次元宇宙につながりあらゆる可能性を垣間みせた。

 一瞬一瞬を大切に生き考えることで物事の本質をつかみとれるよう星に願いをかけて・・・・。

2014年1月18日土曜日

宇宙戦艦ヤマト2199考Ⅸ


 

. そして艦は往く ~提言~


今、興味があるのは、「宇宙戦艦ヤマト2199」の後にガトランティスと激突するであろう次回作についてです。


 2199では、旧作のリメイクとして旧作の矛盾点や内容の取捨選択・再構築が行われることで作品クオリティの大幅な向上に貢献しています。

 次回作においても、そういった従来からあるモチーフをベースにして再構築を図る手法をとるのかホントにオリジナルを創作するのか非常に興味があります。

 

 ここでは、今まで9回に分けて述べてきたヤマト2199考をもとに「提言」を試みたいと思います。 


 なぜなら、これらの要素が多少なりとも含まれていない内容のヤマトが創られた場合、とんでもない「傑作」となるか、それとも「作らなくても良かった」内容となる気がしてならないからです。


 【提言】


  ①  如何に危機的な「ミション・イン・ポッシブル」な目標を創造出来るか。


  生きている人間で沖田艦長に変わり精神的支柱となりうる存在をつくること。
 沖田艦長が死すとき「何もかも皆懐かしい」と独白した感情や古代や雪が叫んだ(前述)感情のピークを超える「感情」を創造すること。


  行き当たりばったり戦略でなく「戦略と戦術」に基づいたものとする。


  SF設定において宇宙物理学などに基づいた知的好奇心に満ちた「明晰」なものを物語へ投入する。


  イスカンダルと約束した「次元波動砲」の扱いを明確にすること。


  登場人物におけるいろんな形の「愛」を表現する。


  次回作でも「魂をつなぐ物語」とすることができるようにすること。


  出来れば物語のラストで短絡的に「特攻」をかける終末的な終わり方をさけること。
   沖田艦長が行ったように最後までねばり強くピンチをチャンスに変え戦うこと。



すみません。結構好き勝手に記載してしまいました。

タイトル・内容についてご寛恕いただければさいわいです。



宇宙戦艦ヤマト2199考Ⅷ





6.     愛の戦士たち ~愛・情と理・魂を繋ぐもの~ (2/2)

 

 「生き抜こうとする意思、彼らにはそれがある。 あなたのことは伝えなければならない。 彼女も来ていた。でもそうしたらあなたとはもう・・・。・・この星は悲し過ぎる。」

スターシャ・イスカンダルの独白ですが、守が死んだ今でも、守と意思疎通ができていることが分かります。

高度の科学は魔法のようなものと真田副長がいっていました。守が記憶だけだったらスターシャとお話したり、「これくらいしかおまえにしてやれない。沖田さんに艦をかえします」という独り言はできません。

ではなにが居るのか。その守本人のパーソナリティーのコアの部分が次元波動として「命のエレメント」が残っており、そのまま電子知能に組み込まれ魂として機能しているという理解しかできません。これこそ魔法です。

ユリーシャが「お姉様、コスモクリーナーを与えてください」って意見具申したとき「いま検討中です」と事務的に返してしまいます。

「情と理」という言葉があります。両方のバランスがとれていないと物事はうまくいかないということなのですが、ここでスターシャは理屈の部分で十分理解しているのですが、守への想いや寂しさといった女の情の部分で譲れぬ「こだわり」がわだかまって心の懊悩が垣間見えます。


 そんな聡明なスターシャの「情念」が、どう育まれたのか。

捕虜として護送船に載せられイスカンダルへ不時着・負傷した古代守に対し、ガミラスに知られないよう、密かにスターシャが献身的な看護を続けていくうちに守は小康を得ます。

喜ぶスターシャ。逢う機会が等比級数的に増えていきます。一方、守も戦闘で負けて地球を守れなかった思いや新見と別れた心のすき間、捕虜として搬送中に負傷したことなどから心身両面に傷を負っていました。守は異星人とも分かり合えることを教えられたと最後のビデオレターで述べていましたが、スターシャ・イスカンダルの無償の愛情や思想にいつしか惹かれたのではないかと思います。

スターシャも心に傷を持ちながらも気高い守の開放的な明るさにインスパイアされ愛し合うようになったと思います。

   デスラーには知られてはいけない絶対秘密の雰囲気のなかでさらに深く濃密にお互いを尊敬し・全てを分かち合う間柄になってしまった。
 

「彼女も来ていた。」と守との思念による会話の中でスターシャが独白していました。つまり、二人の中では「昔の女」の話は伝わっていたということと、守が新見を振ったのではなく新見の意固地さが二人の関係を微妙にしていたところに、守自身も戦闘のため死地に向かうことから別れたのだと思います。

スターシャ猊下とのヤマトクルーとの最初の謁見の際、チラリとスターシャが新見を見た目にスターシャのどんな想いが秘められているのか心底知りたいと思いました。

こういった目先のやりとりから心理状態を想像することも2199を観る楽しみのひとつでもあります。

   スターシャは、あまねく知生体のことを考えて地球へ次元波動エンジンの技術供与をしてくれ、デスラーとはチェスもどきをしながらも、守とは秘密の愛を育み、C.R.S.を受領したヤマトとお別れのときには、お腹押さえて「さようなら 守!」ですから女はある意味怖いというか強すぎです。
 

古代進は雪との最後の別れに、雪を生命維持装置から引っ張り出し抱きしめます。

心肺停止・脳死状態のユキに恋愛するまでの経緯をキチンと語って聞かせます。しかしいくら語っても雪が甦るハズもなく感情に抗しきれず、

   「君のいない地球になんか意味があるのか。意味が!」と絶叫します。

「これくらいしかおまえ(進)にしてやれない。沖田さんに艦をかえします」

   守は沖田の死が近いことを知っていてC.R.S.を限定的(雪)に非常に純度をあげて稼働しました。

それがもし、沖田艦長へも照射されていれば、「何もかもが懐かしい」というセリフを聴くことはなかったからですが、沖田を復活させると「命のエレメント」となるものがなくなり地球を救うことができなくなってしまいます。

   守が雪に行ったのは脳死状態の雪にまだ残っていた波動エレメントの代謝速度を加速して治療を行ったのではないかと妄想しています。

碧水晶の花がユキの復活とともに仄暗い碧から黄金色に変化したのが印象に残ります。

   しかし、C.R.S.の目的は死んだものを生き返らすことではないような気がします。

そうであればイスカンダルの住人が王女さまと姫さまだけというのは納得いきません。守だって生きていたろうし、死んで灰や骨になったものを生き返らせるのではない。と思います。

それではハリポタのヴォルデモートになってしまいます。

考えられるのは、ユリーシャが言った「生命を宿した惑星にはその星の物質と生命の進化の記憶が時空を超えた波動として存在している」という次元波動理論を理解するしかありません。

C.R.S.とは、余剰次元波動としてコンパクト化され存在している星の物質と生命の進化が刻まれている「次元波動体」から地球へ命の芽を解き放ち、素粒子状態の星の記憶を生まれた時からやり直しできる「星の進化」を加速させる装置のように思います。

ユリーシャが、「生命を宿した惑星にはその星の物質と生命の進化の記憶が時空を超えた波動として 存在している。その記憶を解き放つのは、星の思いを宿した物質、星のエレメント。C.R.S.のエレメント(ヤマト)がココに来ないと完成しない。」と言っています。

結局、次元波動エンジンも次元波動砲もC.R.S.も神の数式によって構成され希求する性能に対し、莫大な効果を得られるよう設計された技術。

   星の物質と生命の進化の記憶が時空を超えた波動として存在しているのでC.R.S.により、記憶を解き放つのに必要となる引き金が意識体(魂)を有した「命のエレメント」なのかもしれません。

   スターシャが「わたしたちのような愚行を繰り返さないようにと。」言っていましたが、イスカンダルへの畏敬の念は、最初次元波動砲による恐怖支配からきて、その後、改心したイスカンダルが昇華された思想を獲得、さらに敬愛の対象となったと思います。

   以前、ヤマトという物語は「魂をつないでいく物語」ということを出渕監督が七章の試写会の際言っていたと記憶しています。 

最初に古代守がヤマトのコスモリバースシステムの「命のエレメント」になり、雪を救うため(ほんとは進の魂を守るため)自分の魂のエレメントが消滅することを承知で稼働しました。そこへ死んだ沖田の魂が次の「命のエレメント」となった。沖田のエレメントも星のリバースのため消失するかもしれませんが、これもかならず稼働するでしょう。こうしてヤマトで死んだ者たちは魂をつないでいくのだと思います。

宇宙戦艦ヤマト2199考Ⅶ


 

6.     愛の戦士たち ~愛・情と理・魂を繋ぐもの~(1/2)

メ号作戦の後、偽装していたヤマトにガミラスの空母からレーザービームが打ち込まれ、当初ヤマトへ搭乗するはずだった乗組員たちが死亡します。これは意外に大きな出来事だったのではないかと推察します。

もちろん古代進や島大介などの人事上の抜擢につながるだけでなく、後に艦内で発生するイズモ派による反乱がありましたが、死亡した乗組員たちのなかにはイズモ派がより多くいることも考えられ、反乱が成功し沖田艦長や真田は排除されていたかもしれません。また、沖田艦長というリーダーだけが突出した組織構成となったため沖田の指示する統率に支障が生じなくなったことなどミッションの成否にも影響した可能性があります。

その沖田艦長のもとで抜擢された若い力はいろんな経験を積み「魂」が成長する物語になっています。

  古代進と森雪の出会いは、死に行く雪に進が語りかけたように確かに最悪でした。

そんなふたりですが、「氷原の墓標」では、じっくりと古代進の内面を兄の墓標を絡めつつ描きだすとともに、さらわれた雪を進が取り戻した事件をキッカケに森雪の気持ちの転換点となります。魔女はささやくの土壇場に至ってようやく進は「森くん」ではなく、「雪」と呼び捨てで呼ぶようになります。

「愛詞」の歌詞に「わかるひとにしかわからない愛詞(あいことば)」とあります。ありふれた男女が特別なひとになる。逢いたくて、切なくて、傷ついたあなたの命へ触れたくなったり伝えたくなったり、そういう恋愛模様がドラマの起伏となって楽しませてくれます。

ユリーシャ・イスカンダルは、地球でテロに遭い航法装置の中に生命維持装置とともに押しこめられました。亜空間ゲート内にてデスラーの襲撃を受けた際、今度はそのとき同じテロにあった雪が意識不明の重体となりカプセルで生命を維持します。

雪をこのカプセルに入れ命永らえようとはかりますが、およばず心肺停止と脳死状態に陥ります。そのあとC.R.S.の照射を浴び生命の再生がなされた。

「象徴的」と感じてしまったのが、白雪姫が毒リンゴを食べてしまい、棺のなかに入って生命を維持した状態となり、お姫さまは愛する王子さまのキスでよみがえる。

森雪は、古代進の熱い抱擁とキスでよみがえります。オールドファッションですが、そういう寓話をもとにこの舞台設定なされたのではないかと夢想します。

   デスラー襲撃のシーンはテーマ曲と相まって戦慄すら覚えました。

   デウスーラⅡ世は第二バレラス崩壊時、タラン長官の機転でゲシュタムジャンプして助かっているのですが、今回もタランの活躍により襲撃ポイントの設定や接近の仕方、攻撃手法などを考えたと思われます。

   タランみたいに優秀なテクノクラートを有しておきながらそれを生かせず、スターシャに執着するメンタリティーのデスラーを見ていて切なくなります。

さらに自分の帝国が潰えた理由をヤマトだけに転嫁し、ヤマトを欲しがる狂気に虚無を心に宿してしまった男の無惨さを感じます。

戦略的に何の意味もないデウスーラⅡ世による襲撃によって、「戦うことなんてなかった」悲しい出来事が起きます。一つは雪やほかのヤマト乗組員たちの多数に死者・負傷者がでたこと、もう一つはデスラーが生存していることを知り狂喜したセレステラがジレル特有の精神感応波を無意識にデスラーに照射してしまい反射的に反応したデスラーが銃を撃ってしまったことです。

狂喜してデスラーのそばへ近寄っただけなのにデスラーに銃撃され、総統府にて裏切られた想いがぶり返したセレステラとしては一緒に死にたいとデスラーへの発砲となりますが、助けてくれた過去の想いもありそれも果たせず自殺を図ります。が、それすら果たせずお付きの者に蔑まれて殺されたそのセレステラの無惨な死に様は、さすがのデスラーに冷水を浴びせたと感じます。

   それが古代と雪への発砲を止めさせ撤退した理由かもしれません。

   このあたりデスラーの狂気はセレステラによって減じられたような気がします。

デスラーにとってセレステラに少しでも魅かれる部分があればどちらも救われますが、それは叶わずセレステラの登場シーンにいつも流れる寂しげなメロディーがいつまでも頭に残ります。
 

   さすがとしか言いようがないですが、真田たちがガミロイドをきっちり調査していただけでなく、コンピュータウイルスまで作っていたとは!結構ビックリします。

新見とアナライザーの喜ぶシーンが非常に愛らしくて良かったです。

 ウィルスのヒントは、ハリウッド映画のインディペンデンスディあたりの影響を受けているかもしれません。ヤマトのシナリオが進化している証左だと思います。

さらに実弾攻撃のシーンを見たときには、大航海時代のパイレーツオブカリビアンを彷彿とさせ興奮して手に汗を握りました。

   科学が進みすぎていると今回のような特殊な状況下では実弾攻撃が有効だったということですが、沖田艦長が好きな人間力が発揮された結果なのかもしれません。

   しかしドメルの旗艦ドメラーズは、艦橋の一部が離脱する仕組みになっていました。ここでもそういう仕掛けになっていても不思議ではありません。